インシリコ毒性スクリーニングに関するみんなの広場


 

          
 CBI学会に新たに設立されました「計算機毒性学(Computational Toxicology)」研究会は、日本で最初の計算毒性学研究会として、多くの方々の注目を浴びております。

 「計算毒性学」研究会では化合物毒性に関する様々な問題を、研究会に参加された多くの方々と一緒に討論、勉強、情報交換する場の提供を目指します。
 本研究にご興味のある方々は、研究分野、研究内容、業務内容、スキルレベル、その他の様々な違いがあっても特に問題がありません。「計算毒性学」はその特徴から、様々なバックグラウンドを有する方々に集っていただくことが重要です。少しでもご興味がありましたならば「計算毒性学」研究会に参加いただければと思います。
 研究会の活動内容や、詳細なスケジュール等はキックオフミーティング時および以降の会議や皆様からのご意見等を参考に、順次決定いたしまして「計算毒性学」研究会のネットワーク等に報告させていただきます。順次関連情報等は本ブログにても公表させていただきます。

 計算機毒性学研究会に参加ご希望の方は、以下の「計算毒性学研究会設立報告および参加のお願い」をご一読ください。本資料に書いてありますように、参加のご意向を連絡いただければ、手続きさせていただきます。

2013/01/04

2013年を迎えて:What should be performed on near future after new year of 2013

 インシリコスクリーニングに関係する分野は急速に広がっています。当初は薬理活性中心で、コンビナトリアルケミストリー技術の発達や、仮想化合物の考えが普及する事で化合物ライブラリーの化合物数の増大とその対応を目指した展開が中心でした。その後、創薬におけるADMEの大事さが注目されるに従い、薬理活性とADMEを含めたスクリーニングの重要性が注目され、この流れは創薬の最終ゲートとされる毒性(安全性)を含めたインシリコADME/Tスクリーニングとして展開されるようになりました。最近のADMEに関する急速な研究展開により、ADMEが原因でドロップアウトする確率は大きく減少し、現在は残るT(毒性)によるドロップアウトの回避が大きな問題となっています。

◆ インシリコADME/Tスクリーニングに適用可能な手法
 薬理活性をターゲットとするインシリコスクリーニングは従来のQSAR技術やドッキング等の技術をベースとして様々なアプローチが展開されています。しかし、薬理活性と同時にADMEをターゲットとする場合、薬理活性データ解析のQSARやドッキングの利用は基本原理上利用できないので、従来からADME分野で行なわれてきたPK(Pharmaco Kinetics)/PD(Pharmaco Dynamics)を
基本とした展開が必要となります。同様に、毒性(安全性)評価を行なう場合は薬理活性やADMEの場合と異なる手法の利用が必要となります。毒性スクリーニングで展開可能な技術は化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるアプローチか、人工知能によるアプローチと限定されます。この二つのアプローチはADMEスクリーニングにも原理上適用可能なものです。

◆ インシリコ薬理活性/ADME/T/Pスクリーニングに適用可能な手法
 湯田は、創薬においては化合物に関する全ての特性(薬理活性/ADME/T/P(物性))を同時に考慮しつつ行う事が大事であるという、「統合概念(Integrated concept)」を提唱してきました。この場合、化合物に関する全ての特性評価に共通で適用できる手法は化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるアプローチのみとなります。この観点から、21世紀を主導する創薬手法展開において重要な基本技術は化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)となります。

◆ 化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコスクリーニングの基本技術
 インシリコスクリーニングの最終目的は、その予測精度を如何にして高めるかです。この観点でみると、化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)を実施する時に予測性を向上するための主たる技術としては、以下に示す三つのグループに大きく分けることが出来ます。
 1.適用される多変量解析/パターン認識手法
 2.用いるパラメータの工夫
 3.予測を最大限にする全体としての工夫

◆ 予測性向上に向けたインシリコデータの開発技術と対応
 先の1に関する答えとしてインシリコデータが開発したのが、「KY(K-stepYard sampling)法」です。
 薬理活性/ADME/T/P(物性)とを予測の観点でみた場合、最も困難な予測が、T(毒性(安全性))に関するものです。これは毒性自体のメカニズムが不明で、予測対象化合物の構造変化性が極めて高い(どんな化合物でも予測する事が求められる)ためです。このような特殊な条件を克服し、良好な予測率を達成する事は、従来より提供されている汎用的なデータ解析手法をそのまま適用する事では殆ど解決不可能です。
 このようなことから毒性予測の予測率を少しでも向上する事を目的として開発された新規のデータ解析手法が、インシリコデータが開発した「KY法」です。この「KY法」により、分類率は常に100%達成可能となりました。「KY法」は直接予測率を上げる手法ではありませんが、”予測率は決して分類率を上回ることはない”という基本原理に従えば、本命である予測率向上を目指す前に乗り越えるべき最初の関門である“分類率”を完全にクリアしたこととなります。

 先の2に対する答えとしては、現在様々なパラメータ創出技術やソフトウエアが存在しており、必要に応じて数千種類のパラメータを創出することは可能です。これらのパラメータを駆使し、適用するデータの内容に応じて最適なパラメータ群を選択する技術。あるいは、データ内容に応じた新規のパラメータを適宜開発する事でさらなる予測率向上に向けた技術が展開されます。

 最後の3に対する答えとしては、先にインシリコデータが特許化した「テーラーメードモデリング(Tailor made modeling)」の技術が大きな役割を果たすことになります。この「テーラーメードモデリング」により、化学特有の問題や特性を積極的に利用し、与えられたサンプルデータを用いて最大限の予測率を出す技術が確立します。この「テーラーメードモデリング」の基本である、予測対象化合物と似たサンプル群を取り出して解析母集団を構築し、予測のための予測モデルを作成するという技術は、予測率を確実に向上する事の出来る基本技術として、現在の多くのシステムで導入されています。 しかし、特許出願当時にこのような考えに従ってインシリコスクリーニングを行なうという事は殆ど検討されておりませんでした。

 以上のように、インシリコデータは化学多変量解析/パターン認識(ケモメトリックス)によるインシリコ薬理活性/ADME/T/Pスクリーニングの予測率向上に必要な基本技術を多数開発してきました。またこれら多くの基本技術や関連技術が特許出願(JP/USA/EU)されており、続々と順に特許化(現在も審査進行中)されております。
 インシリコデータは今後とも「統合インシリコスクリーニング」に向けて、たゆまない改善努力を続け、この究極の形となる「一段階創薬(One step drug design)」目指して頑張ります。