2016/01/05

◆ 今年もよろしくお願い致します

◇昨年度の活動報告と御礼
昨年(2015年)、10月に開催されたCBI学会2015年大会では、「計算毒性学」研究会主催でチュータリング一つとフォーカストセッション1およびフォーカストセッション2の二つを企画/開催いたしました。また、12月に開催された日本動物実験代替法学会 第28回大会でもインシリコデータは2014年に引き続いて商業展示を行ないました。さらに、9月にポルトガルのポルトで開催されたEUROTOX2015では、最新のKY法に関するポスター発表を行ないました。

◇インシリコスクリーニングを取り囲む環境の変化
ここ数年でインシリコスクリーニングをとり囲む環境が大きく変化してきました。スクリーニング実施目的として従来からの薬理活性に加えて、ADMEも実施するようになり、さらに毒性(安全性)スクリーニングも加えたものへと変化しつつあることを強く感じるようになりました。特に、毒性(安全性)スクリーニングは対象分野が創薬のみならず、一般化合物にも広がり、化合物全般の毒性(安全性)管理や生体/生態環境保全という観点で実施される政府規制を効率よく実施する目的でのインシリコスクリーニングがその重要性を増しています。また、EUでは動物愛護の観点から化粧品等の分野では動物を用いた実験データを規制当局に提出する事は出来なくなっており、この分野でも動物を使わない実験としてのインシリコによるスクリーニングが重要となっております。

◇インシリコによる薬理活性/ADME/毒性(安全性)スクリーニングの違い
薬理活性ではドッキングシミュレーションによるインシリコスクリーニングが主体となって展開されています。また、ADME関連のインシリコスクリーニングではPK/PDモデルに基づいた展開が中心となっています。化合物の毒性(安全性)スクリーニングでは薬理活性やADMEと異なり、多変量解析/パターン認識によるアプローチと人工知能によるアプローチが展開されています。
これは、化合物の毒性(安全性)は薬理活性と異なり、メカニズムを特定する事が極めて困難なため、ドッキングシミュレーションに必要となる蛋白を特定する事が困難であることが主たる原因となります。また、ADME研究でのPK/PDモデルを毒性に直結する事は困難であり、PK/PDモデルで毒性を評価する事は殆どできません。
上記のようにインシリコスクリーニングは、薬理活性、ADMEおよび毒性(安全性)のそれぞれの特性を生かすことで、全く個別に発展してきました。この結果、インシリコスクリーニングという言葉は一つであっても、それぞれのターゲットの内容によりスクリーニング実施手法が異なり、研究者層、研究概念、研究環境も大きく異なります。インシリコスクリーニングと言って、簡単に薬理活性/ADME/毒性(安全性)の枠を超え、ある分野のスクリーニング手法を他の分野に適用する事は出来ないのが現実です。

◇インシリコ毒性(安全性)スクリーニングの日本での現状と、本ブログの役割
現在インシリコ薬理活性スクリーニングやインシリコADMEスクリーニングに関しては、関連するWEBサイトや学会での発表、研究会が活発に、かつ多数実施されております。しかし、インシリコ毒性(安全性)スクリーニングに関する情報や研究および研究会等の活動は日本では殆ど実施されておりません。CBI学会に設置された「計算毒性学」研究会がインシリコ毒性(安全性)スクリーニングに関する日本で最初の組織となります。
以上のような状況を踏まえまして、本「インシリコスクリーニング」ブログではインシリコ毒性(安全性)スクリーニングを中心に展開いたします。この点、よろしくご理解ください。なお、インシリコ毒性(安全性)スクリーニングの基本技術である多変量解析/パターン認識と人工知能技術は、毒性(安全性)のみならず薬理活性やADMEにも展開可能な手法です。これに対し、薬理活性のドッキングやADMEのPK/PDシミュレーションはその基本原理上、毒性(安全性)への適用は極めて困難です。

◇インシリコ毒性(安全性)スクリーニングの難しさと多変量解析/パターン認識および人工知能
毒性(安全性)スクリーニングの分野では昔から伝統的に多変量解析/パターン認識および人工知能の二つの技術が展開されてきました。これは、毒性(安全性)の特性から、薬理活性のようにメカニズムに基づいた展開が極めて困難であること。また、ADMEと異なり、毒性(安全性)は生体内での定型的な動態を決定することは極めて困難であり、且つ動態と毒性を関連付けることも難しい事が、薬理活性やADMEで展開されてきた手法を毒性(安全性)分野に適用することが出来ない理由です。
このため、インシリコ毒性(安全性)スクリーニングは当初よりメカニズムを一旦ブラックボックス化して結果を導く多変量解析/パターン認識手法が適用され、また毒性(安全性)に関して研究者が有するノウハウを利用する人工知能の二つの手法が伝統的に適用されてきました。なお、多変量解析/パターン認識で設定したブラックボックスは、その内容解明は可能です。これにより、毒性(安全性)メカニズムに関する情報解析が可能となります。

◇インシリコ毒性(安全性)スクリーニングを取り囲む環境の変化
歴史的にインシリコによる毒性(安全性)評価やスクリーニングはかなり昔から実施されてきました。手法的には当初より多変量解析/パターン認識によるアプローチや人工知能によるアプローチが展開されてきました。しかし、当初はインシリコによる毒性(安全性)評価の信頼性が低いこと、および毒性(安全性)評価は実験による実データ主義が中心であったこと、当時は計算機のコストが極めて高価で、かつ計算機のパワーも実用的レベルでの毒性評価を計算する事が困難なほど極めて貧弱であった。また、サンプル数も少なく、実験を行なう方がコスト的に安く、かつ信頼性も高かったため、普及はしませんでした。しかし、現在は当時と比較して計算機の桁違いの進歩により、高速/大量/低コストという観点でインシリコスクリーニングへの期待が高まっています。

◇インシリコ毒性(安全性)スクリーニングを実施する二つの技術に関連する大きな変化
このインシリコ毒性(安全性)スクリーニングという分野を支える大きな二つの技術、多変量解析/パターン認識と人工知能の両方に大きな技術的な変化が起きつつあります。これは、最近のネットワークや観測機器、ウェアラブル端末、そしてインターネット等の発達によりデータが急速に膨れ上がり、ビッグデータIoTという言葉で代表される状態が起こりつつあるからです。
データ処理と言えば多変量解析/パターン認識ですが、ビッグデータのような極めて大量のデータを対象とした解析を行なうには多変量解析/パターン認識自体も変化が必要です。また、大量のデータに埋もれた極めて複雑な情報を探し出し、役に立つものに変換して使う技術として人工知能が脚光を浴びてきており、新時代の人工知能技術が新たに展開されようとしています。

◇インシリコスクリーニングを取り囲む大きな変化へのインシリコデータの取り組み
インシリコスクリーニング、特に毒性(安全性)スクリーニング分野では、ビッグデータやIoTの掛け声とともに多変量解析/パターン認識や人工知能関連技術の大きな変化が、従来とは大きく異なる発展を遂げるものと期待されます。
インシリコデータは長期にわたる化学分野への多変量解析/パターン認識の適用研究や、ビッグデータにも対応可能な多変量解析/パターン認識手法であるKY法の適用と、過去の人工知能システム展開のノウハウを元に、新たなインシリコ毒性(安全性)スクリーニングの実現目指して展開してまいります。
以上
湯田 浩太郎